整形外科 赤木医師インタビュー
私が医師の道に進むことを決めたのは、高校2年生の頃でした。小学校からずっとサッカーを続けていたのですが、高校に入る頃に腰を痛めてしまい、しばらくサッカーができない期間がありました。この通院生活がきっかけで、医師という職業に興味を持つようになったのです。
当時の私は、ただの腰痛だったと今では思いますが、当時はかなり痛くて、数ヶ月間サッカーができないことは大きなストレスでした。治療自体は特別なものではなかったのですが、再びサッカーができるようになったことがとても嬉しかったのを覚えています。サッカーが大好きで、将来も何かしらサッカーに関わる仕事がしたいと考えていたところ、”スポーツドクター”という職業を知り、その道を目指すことを決意しました。
大学を卒業した後、初期研修を終えて千葉大学の整形外科に入局してからは、外傷治療や運動器疾患など、整形外科医としての基本的な手技を学び、その後アメリカに1年半の間、研究留学に行きました。スポーツドクターとしてのキャリアを本格的に歩み始めたのは、2011年前後の大学院時代です。当時、セミナーに参加したり人脈を広げる活動を積極的に行っていて、その一環でフットサル日本代表のドクターを務めるチャンスをいただきました。その後も女子アンダー23チームのドクターとして大会に参加したり、U17から20までの選手たちを担当したり、スポーツ医学の分野で多くの選手をサポートしてきました。
2021年の東京オリンピックでは、選手村ポリクリニックで、整形外科の責任者の一人として勤務をしました。全国の優秀なスタッフと世界のトップアスリートの治療にあたる、という非常に有意義な経験も得ることが出来ました。現在は千葉市を拠点とするプロバスケットボールチーム、アルティーリ千葉のチームドクターとしても活動しています。
大学病院では教育、臨床、研究の3本柱で活動するのが一般的ですが、臨床に直結する研究をしながら診療をメインにしたいと考えました。また、大学病院は手術の待ち時間が長く、心臓に問題がない患者さんには早く手術をしてあげたいということで、同じ医局の山下先生の繋がりで、当院で手術をするようになりました。
現在、私は週に4日ほどおゆみの中央病院で、週に1日はJメディカルおゆみので勤務をしています。金曜日と月曜日の午後は他のクリニックでの外来を担当しており、大学院生時代から関わっている西千葉の鍋島整形外科でも月に2回外来を行っています。鍋島先生はサッカー界の重鎮で、私もそこでサッカードクターとしての経験を積んできました。さらに、千葉市の東山エリアの患者さんをカバーするため、緑区にあるあらい整形外科でも外来を担当しています。また、海浜幕張のながしま整形外科でも月に2〜3回の外来を行っています。
当院に来られる患者さんは、ほとんどがご紹介を通じて来院されます。とくに高齢の患者さんが多く、加齢による変形性関節症が疾患では多くなっています。変形性膝関節症とは、膝の関節の軟骨の質が低下し、少しずつすり減り、歩行時に膝の痛みが出現する病気です。 私が外勤で外来を診ているクリニックは、以前からスポーツ整形で有名で、県内各所から高校生や大学生の患者さんが集まるため、手術が必要な場合は、当院まできていただくという流れをとっています。必ずしも手術が必要ではない患者さんもたくさんいらっしゃいます。そのような場合にはクリニックでまず評価をして、経過を診たり、必要であれば当院にきてもらっています。
当院に赴任して3年目になりますが、近隣の開業医の先生方から直接私に紹介していただくケースも増えてきています。スポーツドクターとしての活動が長くなると、地域のサッカーチームやラグビー教室、トレーナーさんとも顔見知りになることが多く、口コミでのご紹介も増えています。最近では、近所の高校のサッカー部の選手が膝を痛めたため診察依頼があったり、親御さんがインターネットで調べてお子さんを連れてくるケースも多いです。
専門性が高い医療を提供することはもちろん大切ですが、同時に、老若男女問わず、膝で困っている方一人ひとりに合わせた、治療法を提案することを心がけています。たとえば変形性膝関節症は、突然人工関節が必要になるわけではありません。40代くらいから徐々に半月板に痛みを感じるようになり、50代くらいになると軟骨がすり減ってきて、O脚が進行してきます。この段階では、骨切り術を行いO脚を矯正することで、痛みを軽減し、人工関節を避けられる可能性があります。さらに、60代後半から70代の患者さんでも、内側だけ、膝の一部のみが悪くなっているケースがあります。この場合には、人工関節の単顆置換術(UKA)を行うことで、手術後の経過が良く、回復も早いです。UKAは、患者さんへの負担が少なく、入院期間も短くて済むため、できる限りこの方法を選択したいと考えています。それでも内側も外側も悪化してしまった場合には、全人工膝関節置換術(TKA)を行います。しかし、TKAの中でも、軟骨だけが傷んでいるが靭帯は健康という場合には、「CORI」という器械を用いて、前十字靱帯を切らずに人工膝関節手術を行います。
従来の人工膝関節全置換術(TKA)では、前十字靭帯を必ず切除するのが一般的な方法でした。場合によっては後十字靭帯も切除することもあり、切除により膝の安定性が低下し、膝関節の完全な再現が困難だったのです。しかし、CORIを用いることで前十字靱帯を切除しない(前十字靱帯温存型)人工膝関節手術も安全に行うことが可能になりました。CORIを導入したことにより、当院で対応できない膝の患者さんはほとんどいない状態となっています。
私は、膝関節外科医として、患者さんの年齢や症状に応じて最適な治療法を提供することを目指しています。膝の状態は年齢とともに悪化することが多いですが、そのどの段階でも対応できるようにしたいと考えています。 膝の治療にはさまざまな選択肢があります。たとえば、スポーツのケガであれば靱帯や半月板損傷の再建・修復ができる場合もありますし、軟骨損傷や変形性膝関節症についても人工膝関節全置換術(TKA)だけでなく、部分置換術(UKA)や骨切り術、さらに若い患者さんには軟骨再生医療などが考えられます。これらの選択肢の中から、患者さんにとって最適な治療法を見つけることが大切です。
当科の患者さんには、糖尿病や高血圧症、脂質異常症といった生活習慣病のほか、心臓や肺、腎臓などに複数の合併症を抱えている高齢の方がたくさんいらっしゃいます。一方で、まだ若い年代の患者さんや、初期の疾患などで手術が必要のない患者さんもたくさんいらっしゃいます。患者さん一人ひとりの状態に合わせて最適な治療法を提案し、どのフェーズでも最良の対応ができるように努めることが私のモットーです。
膝の痛みがある患者さんには、まずは私たちに相談してほしいと思っています。最終的に人工膝関節全置換術(TKA)になるかもしれませんが、それが最初の選択肢ではありません。 多くの場合、開業医の先生方からは、膝が非常に悪くなってからTKAを依頼されることが多いです。しかし、私の本音としては、膝の状態が悪化する前に、たとえば数年前に相談を受けていたら、単顆型人工膝関節置換術(UKA)を行うタイミングがあったかもしれません。早期に相談していただくことで、最適な治療法を提供できる可能性が高まります。
もちろん、どの治療法が最適かは診察を通じて判断します。開業医の先生方には、どの段階でも困ったらご紹介いただきたいと思っています。こちらで評価させていただいた上で、手術が必要ない場合は、開業医のクリニックで引き続きケアをお願いすることもありますが、これが患者さんにとって最良の方法だと考えています。
略歴
学歴
- 千葉大学医学部医学科 卒業
- 千葉大学大学院 医学薬学府 先進医療科学専攻 博士課程修了
- International Olympic Committee Diploma in Sports Medicine
職歴
- 武蔵野赤十字病院 初期臨床研修医
- 千葉大学整形外科入局、千葉大学医学部附属病院 整形外科
- 松戸市立病院 整形外科
- 千葉労災病院 整形外科
- 千葉県こども病院 整形外科
- 千葉大学医学部附属病院 麻酔科
- 千葉大学医学部附属病院 整形外科 スポーツグループ所属
- 米国 The Scripps Research Institute留学
- 総合病院国保旭中央病院 整形外科
- 千葉大学医学部附属病院 整形外科 助教
- 千葉大学大学院医学研究院 整形外科学 助教
- 千葉大学予防医学センター
- 千葉大学医学部附属病院 スポーツメディクスセンター 副センター長
- おゆみの中央病院 整形外科 部長、膝関節・スポーツ医学センター センター長
資格
資格/認定
- 日本整形外科学会専門医
- 日本体育協会認定スポーツドクター
- 日本整形外科学会認定スポーツ医
- 医学博士
- International Olympic Committee Diploma in Sports Medicine
- 日本人工関節学会認定医
表彰等
- 2006年 平成18年度千葉医学会整形外科例会1例報告部門 Award
- 2012年 World congress on osteoarthritis(OARSI) 2012 Young investigator Award
- 2012年 平成24年度千葉医学会整形外科例会 基礎研究部門 Award
- 2018年 APKASS-ESSKA travelling fellowship
- 2022年 JOSKAS-JOSSM2022 ベスト口演賞
- 2024年 AFC travelling fellow for football medicine